No.8, p.1 2001年4月


第8回おかやまホスピス市民講座
(緩和医療研究会第29回研究集会・講演会と共催)
平成12(2000)年11月19日
於:三光荘パブリゾン(岡山県職員会館)

The Team Approach in Palliative Care
Angela Egdell, Patients Services Manager
Deborah Heron, Personal Manager
St. Oswald's Hospice, Newcastle upon Tyne, U.K.

緩和ケアにおけるチームアプローチ
 ―英国の緩和ケア施設での実践に学ぶ―


 アンジェラ・エグデルさん(写真左)
  患者サービスマネジャー
 デボラ・ヘロンさん(写真中央)
  人材開発部長

 セントオズワルドホスピス
 (英国ニューカッスル市)


 座長:加藤恒夫 かとう内科並木通り病院
 通訳:小笠原ヒロ子



司会(加藤) 昨年(1999年)私どもは英国からセントオズワルドホスピスのクロード・レナード医師を迎えて,緩和医療の発展の技術について,いろいろな多くの情報をいただきました。そして同時に,緩和医療におけるジレンマがどういうところにあるかも聞くことができました。
 私たちが緩和医療あるいは緩和ケアについていろいろな講演会などで耳にすることができるのは,わりあいと表面的なきれいごとを聞くことが多いのですが,岡山での私たちの活動は,国内の他の地域で行なわれている緩和ケアのプログラムと違って,いったい緩和ケアの発展においてどのような問題点があるのか,昨年のレナード医師のお話にありましたように,英国での現場における実態をできるだけ詳しく聞こうということを主たるねらいにしております。
 本日のテーマも「緩和ケアにおけるチームアプローチ」と銘うっていますが,いったいチームアプローチの現場ではどのようなことが実際に起こっているのか,そしてその困難をどのように乗り越えていくのかというところを,できればお聞きしたいと思っています。
 もう一つボランティアについても,私たちはきれいな話を聞くことが多い。自分たちの気持ちを大切にして,患者様のためにどのように私たちが尽くすかという,そういうところで語られるボランティアの話が多いのです。しかし英国におけるボランティアの方向性は,私たちの考えているのとはぜんぜん違う方向に向かっていることがわかっています。ですから今日は,英国ではボランティアがどのように組織され,ホスピス運動の中でどのような役割をもつように考えられているのか。そして,専門家たちとどのように協力しあい,また反発しあっているのかというようなところを含めて,お話が聞けるのではないかと期待しています。

----------
セントオズワルドホスピス St.Oswald's Hospice
Regent Avenue, Gosforth, Newcastle on Tyne, NE3 1EE. U.K.
◎入院病床 15 床
◎スタッフ 医師3名,看護婦41名,チャプレン1名,SW2名,OT1名,PT3名など
◎デイホスピス 1日20人利用可能
◎デイトリートメント 1週間25人に対処可能
◎外来診療 9つの症状領域へ対処
◎診断に関係なくケアサービスを提供
◎電話相談 24時間開設
◎教育部(緩和ケアのトレーニングを担う)
*法人セントオズワルドの組織は,患者サービス部,専門医部,人材開発部,総務や宿泊などを管理するコーポレートサポートサービス部,財政部,募金活動などを行なうキャンペーン部の合わせて6部署がある。それらをチーフエグゼクティブが統括し,その上にトラストの理事団がいるという組織構成になっている。
------------

 それでは,最初にお話をしていただくアンジェラ・エグデルさんの経歴をご紹介します。アンジェラさんは現在,セントオズワルドホスピスで患者サービスマネージャーをしておられます。患者さんへのサービスをいわば統括する責任者です。医師による医療以外のすべてに責任をもたれている立場です。1981年にニューカッスルの看護学校を卒業後,86年にセントオズワルドホスピスが開設されると同時に看護スタッフとして着任され,その後さまざまなポストを経られたのち,1999年から現職に就いておられます。
 ではよろしくお願いします。



緩和ケアにおけるチームアプローチ

Angela Egdell(アンジェラ・エグデル)
英国セントオズワルドホスピス,患者サービスマネジャ


 みなさん,こんにちは。私は英国ニューカッスル・アポン・タイン市にあるセントオズワルドホスピスで,患者サービスマネージャーをしているアンジェラ・エグデルです。日本へは初めてですが,みなさまから親切にしていただき感謝しております。

(1) セントオズワルドホスピスの仕事の概要

 セントオズワルドホスピスは,英国の北東にあるニューカッスル・アポン・タイン市の郊外にあって,specialist palliative care(スペシャリスト緩和ケア)のためのユニットです〔これについては5ページ特集1を参照〕。入院病床は15床で,デイホスピスは一日に20人を受け入れることができ,週5日ケアを行なっています。デイトリートメントは,週25人の患者さんの対処が可能です。外来診療は,疼痛コントロール,症状コントロール,呼吸困難,リンパ浮腫の治療など9つの症状領域を対象にして,サポートや診察を行なっています。
そして,私のいる患者サービス部門ですが,診断とは別に患者さんへのケアサービスを提供しています。私たちがサービスする患者さんは必ずしもすべてが,がん患者さんではありません。
 教育部では,施設内教育だけでなく,法律で定められている研修をスタッフとボランティアにも行なっていますし,公開講座も行なっています。
 私たちは,ニューカッスル市と近郊の200万人を超える住民にケアを提供しています。病院の医師や家庭医(GP: General Practitioner)から紹介されてやって来る患者さんに,症状コントロール,終末期ケア,一時入院ケア(respite care)を行なっていますが,冒頭でも申し上げましたように,セントオズワルドホスピスでは,他と違って,余命が1年もないという患者さんにもケアとサポートを行なっています。
 こうした臨床業務のほかに,ヘルスケアの専門職の方に24時間の電話によるアドバイスを行なっています。また,子どもへのサービスも考えているところです。
 本日のテーマは,「緩和ケアにおけるチームアプローチ」です。そこで,チームワークというとき,私たちがどう理解しているかをまずお話ししましょう。それから,セントオズワルドホスピスにおける臨床(クリニカル)チームについて,さらにそのチームワークの現状について長所と短所も含めてお話していきます。

チームアプローチの定義
 『アメリカンヘリテージ辞典』によると,チームワークとは「ひとつの目標を達成するためにグループもしくはチームで協力すること」です。もうひとつ『ウェブスター辞典』によると,「たくさんの仕事仲間によって行なわれる仕事のこと。その際、通常は、各人がそれぞれ、明瞭に定義された分担を遂行するが、個人が突出することよりも、チーム全体としての力を重視する」とあります。イギリスの医療においては,内科や外科の多くの分野において複数の専門職によるチームについて,長いこと議論されてきました。
 近年になると,ホスピス運動とspecialist palliative careが,複数の専門職によるチームワークという考え方をしてきていて,患者さんの全人的なケアを提供するには欠かせないと考えられるようになってきています。全人的ケアとは,簡単にいうと,トータルなケア,全体のケアということで,身体的な症状だけではなくスピリチュアルな面,感情面,社会生活における問題やニーズに対するケアおよび対処のことです。このことは,ホスピスやspecialist palliative careのユニットが,患者さんとそのご家族に何を提供しようとしているのかを説明するのに役に立つので,これを定義として使うこともできます。
 チームワークに関して鍵になる考え方は,私の理解では,その臨床チームのメンバーはすべて平等だということです。患者さんのケアにおいては,メンバー全員に発言権があり,果たす役割もひとつだということです。チームのメンバーは,お互いに信頼し合い,プロとしてのそれぞれの意見を尊重します。患者さんとご家族のためになるよう,みんなが協力しながら,お互いに支え合い,励まし合います。専門職の間に優劣はないからです。しかし実際問題として,臨床チームも人の子ですから,この考え方をなかなか実行できません。
 複数の専門職から成るチームはどれも長いこと,医療スタッフの上級メンバーが強大なリーダーシップを発揮してきました。すべてのミーティングで医師が議長を務めてきました。ドクターと他のメンバーが同じ意見でありさえすれば,場合によっては全員に発言権があり果たすべき役割もありましたが,それも医師に賛成するというかぎりにおいてでした。現在でも,そういうやり方をしているチームもあります。
 実際的なこととして,チームも専門職も,リーダーがきちんと決まっているほうがいいというところもあります。ただ,人間ですから,すべてのチームのメンバーが,他はいざ知らず,協力して仕事ができるとはかぎりません。ひとつのチームの中に,グループとか派閥ができたりして,チームにとってはきわめて有害となる場合もあります。
 専門職同士が,他の専門職の意見を受け容れなかったり,また専門職としての嫉妬が生じたりすることもあります。そういう嫉妬心が生じた場合,患者さんを別のもっと適切なチームに渡すほうがいいのに,それを拒絶するような専門職や個人が出てきたりします。こういうことが起きると,複数の専門職から成るチームのメンバー全員がその患者さんのケアに乗り出してきて,患者さんやご家族は戸惑ってしまうことがあります。
 このようにいろいろと欠点もあるのですが,複数の専門職によるケアは信頼できるものであることが,今では明らかにされています。そしてチームがうまく機能している場合には,患者さんやご家族だけでなく,ケアをする人やボランティアにも,はかり知れない利益がもたらされるのです。

(2) セントオズワルドホスピスの臨床チーム

 セントオズワルドホスピスの臨床チームの構成は,specialist palliative careの分野にあってはごく標準的なものです。各専門職の人数は,ユニットの大きさによりさまざまです。中心となる構成員は,看護婦,医師,ソーシャルワーカー,司祭,作業療法士,理学療法士で,specialist palliative careを提供しているほとんどすべてのチームの構成はこのようなものです。他のユニットでは,これ以外の専門職のメンバーも加わります。たとえば補完療法士やアートセラピストなどです。それから,それぞれのユニットの状況によって,メンバーの役割が異なる場合もあります。
 セントオズワルドホスピスにおける私の仕事は,医療スタッフを除く臨床チームのすべてのスタッフを管理することです。医療スタッフは,緩和医療の専門医のひとりが管理しています。
 では,チームの構成員を個別に紹介します。

看護婦
 今のところチームのメンバーとして一番人数が多いのが,看護婦です。セントオズワルドホスピスには,資格を持った看護婦(SRN=国家公認看護婦)とそうでない看護婦(SEN=国家登録看護婦),常勤,パートを含めて,ぜんぶで41人の看護婦が雇用されています。この41人がベッドサイドで毎日の膨大な「実際のケア」を行ない,患者さんとご家族を支えています。
 看護の強みは,患者さんを理解する,患者さんの身になって考えることができるというところにあります。また患者さんの容態もしっかり判断・評価できます。患者さんの身近にいるのですから,1分刻みに1時間おきに,再判断・再評価することも多いわけです。
 ただチームのメンバーとして考えた場合,看護婦の弱点は,自分をキーメンバーでないと見てしまい,時に後ずさりして,自分たちよりも重要だと見ている専門職に簡単に従ってしまうという傾向があります。

医 師
 医師は,チームのキーメンバーです。私どもには,ホスピスをベースにしている3人の緩和医療専門医がいます。それぞれ,地域社会や他の病院へも出張して仕事を行なっています。私たちのホスピスには,緩和医療専門医や地域社会で仕事をする家庭医になる医師に対して,訓練を行なう資格が認可されています。
 医師の技術は明瞭です。長い期間の訓練によって,患者さんを判断・評価する技術を身につけてきているだけでなく,患者さんを診察したり,容態をさらに究明したりします。緩和ケアで基本的なことがらである薬の処方は,医師にしかできませんし,患者さんの死亡診断書を書くのも医師に限られています。
 医師はサイエンスを基盤にし,看護はアート(ワザ)だと見られていて,この姿勢の違いから,ときに衝突することもあって,医師は傲慢だとの非難を受けることもしばしばです。場合によってそういうこともあるでしょうが,しかし医療スタッフは,とくに疼痛コントロールや症状コントロールといった臨床での困難な問題に指示を出すように,他のチームメンバーからは頼られているのに,つねに八方ふさがりで,勝ち目のない状況におかれているようなものです。私どもの文化では,医師は答えを出さなければいけないのです。
 たしかに,多くのチームは,医師に過度に依存し,ほとんどの状況で,臨床現場のリーダーとしての医師に従ってしまうのです。臨床現場でもそれ以外の場所でも,医師は,単なるメンバーのひとりでありたいと思っていても,みんなから望まれていつでもまとめ役にさせられてしまうのです。こういう事情があるので,医師は,同僚ではなくリーダーに見られてしまうわけです。そこで,看護婦や他の専門職は,勇気を出して,時に主導権をとる必要があります。

ソーシャルワーカー(SW)
 セントオズワルドホスピスには現在,2人のソーシャルワーカー(SW)がいます。いずれもパートタイムですが,一人は主に患者さんの退院計画を担い,もう一人は,カウンセリングと離別支援を担っています。どちらも重要な役割です。もちろん医師も看護婦も,患者さんのカウンセリングや支援を行なえますし,実際行なってもいますが,患者さんやご家族の中には,もっと正式な計画された支援を望まれる人たちがいるのです。私どものカウンセリング担当のSWは,患者さんやご家族と1対1で仕事を行ないます。彼女(SW)は,患者さんが亡くなったあとの,ご家族やケアをしてきた人の離別支援も1対1で行なっていますし,離別支援グループも運営しています。スタッフのサポートもカウンセリングも1対1で行なっていますし,グループの中で過去をふり返る場合のファシリテーター(促進役)も務めます。
 もうひとりのSWは,退院計画を担当していますが,彼女のおかげで,セントオズワルドホスピスの15床のベッドは,できる限り多くの方に利用していただけるようになっています。それは,家に帰りたい患者さんには,当を得た良質のケアを用意してあるので安心して家に帰れるからなのです。退院の前にSWは,実際に患者さんのご自宅に行きまして,退院したらどの程度のサポートが必要なのかを調べます。
 彼女は,他のサポート機関とも協力して,その家にどれだけのサポートを投入すればいいか計画をたてます。患者さんによっては長期のソーシャルケアが必要な方もいるので,そういう場合にはできるだけ早くナーシングホームへ移送できるようにします。こうした患者さんのためになるシステムについて,SWはよく知っているので,補助金や特典を患者さんが受けられるように手伝うこともできます。
 SWの患者さんに対する見方は,看護婦の見方とは異なることがよくあります。看護婦に比べてSWのほうが,患者さんをあまりかばうことをせず,患者さんが自立を保てるようにして,そのためのリスクをある程度負ってもらいたいと考えています。こうした違いが,SWと看護スタッフの衝突の原因になることがあります。看護スタッフは,どちらかといえばもっと「養護する」モデルで考えているからです。
 それから,カウンセリングを担当するSWは守秘義務があるとされ,カウンセリングで得た極秘情報の一部はチーム全体で共有することができないために,チームの他のメンバーからの信頼感を得らない原因にもなります。

施設付きの司祭(チャプレン)
 セントオズワルドホスピスのチャプレンはパートタイムの方で,患者さん,ご家族,スタッフ,ボランティアの,スピリチュアルな面のサポートを提供しています。もちろん,教会で行なわれる正規の礼拝もあり,患者さんやご家族といっしょに祈ることもありますし,患者さんが亡くなられた場合に,スタッフの悩みの相談を個人的に聴くことも,デイサービスに来られる患者さんと歓談したりすることも行ないます。
 ホスピスは,緩和ケアにおける宗教の役割を広く捉えています。宗教面のサポートは,患者さんの自由意志で利用できるようになっていて,強制はされません。
 患者さんの幅の広いスピリチュアルなニーズに対しては,私たちもできるだけ幅広く対応しようと努力しています。現在チャプレンがリーダーになって,患者さん,ご家族,スタッフ,ボランティアのそれぞれにとって,スピリチュアリティとはどういうことなのかを理解する作業を行なっています。
 私どもは,どんな信仰をもっている人でも,無信仰の人も歓迎しています。私どものチャプレンは,マイノリティ(民族的少数派)の信仰の指導者とも緊密な関係をもっていますので,いつでも,とりわけその民族の人が患者さんになった場合には,私たちのホスピスへ訪ねて来てくださいと伝えてあります。
 私どものチャプレンは,チームにすっかりとけ込んでいて,全員からすばらしいサポートだと感謝されており,その点で私どもは実に幸運だと考えています。その理由のひとつとして,彼女(チャプレン)が,ソーシャルワーカーとカウンセラーの訓練を受けたという経験が考えられますが,やはりもっとも大きな理由は,彼女の人柄によるのです。
 なお,他のユニットでは,チャプレンを臨床チームに入れるのが難しいところがあるということも,私は承知しています。

作業療法士(OT)
 私どものOTは常勤で,仕事の大部分は,患者さんの機能回復と,退院計画づくりです。退院計画づくりでは,器具や装備の調査や,担当のSWと患者さん宅への訪問も行なっています。退院の過程でOTが果たす役割は非常に重要で,安心して退院できて器具や装備も大丈夫かを調べます。
 OTの部署には,貸出しできる器具や装備が多少はありますが,大部分の器具や装備は,NHS(National Health Services,国民保健サービス)や社会福祉部門から提供されます。OTは,スタッフやボランティアに対して,移動介助の方法を訓練する教師でもあります。
 移動介助については,法律によって,たんに臨床のスタッフだけでなく,スタッフ全員が訓練を受けることが義務づけられました。スタッフは,ホスピスに入った時点でのオリエンテーションの一環として全員がその訓練を受け,その後も1年に1回,再訓練を受けます。

理学療法士(PT)
 PTは,たとえば車椅子が必要になるなど機能低下した患者さんに対して,順応できるようになるためのリハビリを行ないます。また,患者さんの退院にあたっては,ご家族とも緊密に連繋して,安全な移動が確保できるようにします。肺理学療法の胸叩法(タッピング)や振動法,他人や機械を借りての運動,車椅子のチェックなどの仕事も行ないます。理学療法主導の「呼吸困難クリニック」にも関わりますし,ひとりは,アロマセラピーとマッサージの訓練を受けています。
 私どもにはパートタイムのPTが3人おり,うち2人が入院病棟で,1人がデイホスピスで働いています。これらの療法士は,臨床現場の人間として臨床チームにしっかり受け入れられているのが普通ですが,とくに看護スタッフが療法士の役割をしっかり理解しています。

 以上,臨床チームを構成するメンバーについてお話してきましたが,そのほかにチームを補完し支えているのが,スタッフといっしょに仕事をしているボランティアです。彼らによって,私たちは,患者さん,ご家族,ケアをしている人,スタッフ,そしてボランティア自身にも,いつも複数の専門職の技能を提供することが可能になっているのです。私どものボランティアチームは全体では,雇用されているチームより数が多く,これについてはのちほど,デボラ・ヘロンから話があるでしょう。

チームアプローチで必要なこと
 複数の専門職から成るチームを機能させる方法の構築には,たくさんのやり方があります。ただどういうモデルにせよ,もっとも重要なのはコミュニケーションです。
 私たちの直面しているひとつの課題は,チームの中でのパートタイムのスタッフの数が非常に多いということで,患者さんに最善のケアを提供し,サポートをするユニットとして,チームが仕事をしていけるようになるためには,チーム内でのコミュニケーションがことさらに重要になっているのです。しかし,各専門職はそれぞれ独自に仕事をしていてあまりにも忙しいために,自分の仕事にかかりっきりになり,うっかりするとすぐに他の専門職との連絡が途絶えてしまいます。
 セントオズワルドホスピスではこうした事態に対応するために,ホスピスにいるメンバーは午後にできるだけ多く集まるようにしています。とくに現在は月曜日の午後が集合日で,チームの全員が集まるようにし,入院している患者さんの状況について,検討会やプランづくりのミーティングが行なわれます。こうしたことで,スタッフは,各患者さんの計画がどんなものであるかの最新情報を得ることができ,どの患者さんに誰が関わるかがわかり,1週間の間にどの患者さんが亡くなられたかの話も聞けます。このミーティングへは,専門職だけでなく,在籍している上級の看護スタッフや医療スタッフからも代表が出席します。
 以上,まとめますと,スタッフにとっては知識と技能を日々更新していくことが必要です。

(3) 各ユニットにおける看護スタッフの仕事

 臨床チームの中では,看護婦が最大の勢力だということを申し上げましたが,ホスピス全体でもそうなっています。入院病棟は,シスターでもある上級看護婦の統率の下にあり,シスターが責任をもって24時間対応しています。臨床のリーダーであり,どういうケアを行なっていくかにも深く関わっています。
 私どもには15床の入院ベッドがあり,看護婦は2つのチームに分かれています。それぞれのチームは,緩和ケアの学位または修了証書を持っている上級看護婦がリーダーを務めています。そのもとに,常勤とパートタイムの看護スタッフがいますが,その中にも資格を持った看護婦(SRN)とそうでない看護婦(SEN)がおり,1チームで7〜8人の患者さんをみています。
 入院中は同一チームがケアにあたるため,患者さんとスタッフは身近な存在になっていますし,再入院においても同じチームに戻れるようにしています。この点が,病棟や看護婦が変わってしまう可能性がある規模の大きなホスピスとは大きく異なる特徴です。私どものところでは,患者さんやご家族にケアを提供するスタッフと一緒に働いてくれるボランティアの看護スタッフにも恵まれています。
 複数の専門職から成るチームで仕事をするモデルは,看護婦に力を与えてくれます。従来,一般看護の中では,看護婦は医師に忠実に従う者と見なされてきましたが,今は,とりわけホスピスあるいは緩和ケアの分野では,そういう見方は消えていきつつあります。最近では,看護の仕事というのは,医療スタッフと一緒に行なうものであって,お互いの技能は補完しあうものであるだけでなく,患者さんのためにもなるということになってきています。
 私の経験では,看護婦で,医師になりたいという人はほとんどおりません(笑)。同様に,医師のほうでも,看護婦・看護士になりたいと思う人もいないでしょう(笑)。協力しあうことがこれから進むべき道であり,それによって,全員のためにもなると思うのです。

デイサービス
 入院病棟と同様,上級看護婦(シスター)が24時間責任をもって対応しています。責任の範囲は,デイホスピス,デイトリートメント,外来診療に及びます。
 デイホスピスとデイトリートメントのユニットには,ともに看護スタッフのチームがありますが,それぞれに対等な立場の看護婦が仕事に就いています。この人たちが毎日の仕事をまとめ上げているので,上級看護婦は開発事業に集中できます。
 デイサービスのチームは,常勤,パートタイムのスタッフがおり,その中には資格を持った看護婦(SRN)とそうでない看護婦(SEN)がいますし,たくさんのボランティアもいます。
 デイホスピスに来られる患者さんは,入院している患者さんよりも,疾患が初期のステージの方が多くなっています。
 デイホスピスは,厳密な医学モデルに従っている入院病棟に比べて,社会モデルの度合いが強くなっています。つまり,デイホスピスでは看護婦主導になっているために,患者さんの薬の処方はここでは地域担当の家庭医が責任をもって行なっています。しかし,デイホスピスに来ている間に患者さんに疼痛その他の症状に問題が起きた場合には,ホスピスの医療スタッフが診ることもあります。が,与薬の変更になどに関しては,家庭医に連絡をとって行なっています。
 また,チームの他の専門職メンバーは,もしその患者さんへのサポートが必要になれば,誰もがデイホスピス内で仕事をすることになっています。

デイトリートメント
 こちらは,もうちょっと厳密な医学モデルに従っています。デイトリートメントに来られる患者さんは,一日あるいは一日の何時間かをそこに来て,ふつうならホスピスや病院に入院して行なう治療を受けます。ここで行なわれる治療は,輸血や,高カルシウム血症に対する静注,疼痛コントロール,リンパ浮腫治療などです。
 このユニットも看護婦主導になっていて,スタッフは,リンパ浮腫治療の高度な技能の持ち主です。また,輸液などのためのカニューレの挿管訓練も受けています。このようにデイトリートメント・ユニットは,看護婦主導にはちがいないのですが,患者さんに対して責任をもっているのはあくまでも家庭医で,薬の処方は家庭医が行なうようになっています。
 ただ,デイトリートメントに来ている間に患者さんに疼痛その他の症状で問題が起きた場合には,ホスピスの医療スタッフが診ることもありますが,その場合も与薬の変更などに関しては,あくまでも家庭医に連絡をとってから行ないます。

外来診療,呼吸困難クリニック
 セントオズワルドホスピスの外来診療ユニットには専属のスタッフはおりません。疼痛および症状コントロールは,患者さんが紹介された上級医師が担当しています。看護スタッフは,現在のところ,デイホスピスのスタッフが兼任しています。たた将来,もし外来患者サービスの規模が大きくなれば,専属のスタッフが必要になるでしょう。
 呼吸困難クリニックは,理学療法士(PT)主導です。現在の理学療法チームのメンバー2人が,薬によらない呼吸困難のコントロールの訓練を受けました。セントオズワルドホスピスがある地域は,ひとつにはかつて重工業地域だった歴史があることと,喫煙率が高いことから,肺がんの患者さんが多いのが特徴で,呼吸困難クリニックはいつも多くの患者さんに待っていただいているほどです。
 リンパ浮腫の外来診療クリニックは,看護婦主導ですが,デイトリートメントのスタッフが兼任しています。
 こうして看護婦は,外来治療に好反応を示す患者さん用のトリートメント・パッケージを吟味しながら発展させているのです。これに対して,デイトリートメント・ユニットには,もう少し重症の患者さんが来られます。

看護部門に課せられた主な仕事
 看護スタッフにとっても,また当然のことながらホスピスで仕事をするすべてのスタッフにとっても,毎日の仕事は多種多様です。
 入院病棟とデイサービスで行なう患者さんへの直接ケアには,まず,おフロに入れる,食事を手伝う,着替えを手伝うなどがあります。そのほかに,患者さんとご家族を感情面でサポートすること,新しい患者さんのアセスメント,行動計画づくり,ゴールの設定,再アセスメント,文書書類の作成,退院計画づくり,他チームのメンバーとの連携,ホスピス外部の専門職との連携,患者さんとご家族とのコミュニケーション,各部署での活動,薬剤管理,静注の管理,瘡の手当て,創作活動の援助,死期の近い患者さんと親類への寄り添い,電話による問い合わせの応対,人材開発,作業の反省などなどがあります。
 このように,活動の範囲は桁外れに多く,言いもらしたものも数多くあると思います。この多様性のおかげで,とりわけ緩和ケアの分野においては,それだけ看護がやりがいのあるものになっています。

(4) 緩和ケアにおけるチームアプローチ

 良質な緩和ケアを提供するには,以上お話してきたように,チームワークがうまくいっていることが不可欠です。コミュニケーションスキルと,意思疎通できる技能は,チームのすべてのメンバーにとって最も重要なことですが,これは割合かんたんに達成することができます。
 しかし,意思疎通が難しいケースがあります。それは,ホスピス外の,他のサービスに対してです。患者さんがどこにいても,良質の緩和ケアをいかに切れ目なく提供していけるかが,大きな問題です。上手に意思疎通できる能力があると,そうした危機を回避することができ,患者さんは自分が受けたい場所でケアを受けることができるようになります。
 スタッフは,地域を拠点に活動しているプライマリケアチームとも上手にコミュニケーションできなければなりません。コミュニケーションが発達している最近であっても,このプライマリケアチームとの関係は,問題がよく起きる領域です。
 ホスピスの入院患者さんの退院計画をつくるときは,家庭医や地区看護婦(コミュニティナース,訪問看護婦)らにできるかぎり注意を与える必要があります。例えば,金曜日の午後に退院する場合は,週末でサービスレベルが低下しますから,できれば避けたほうがいいですし,薬は前もってしっかりオーダーしておくこと,退院のための輸送手段の手配,患者さんとご家族がいつ退院するかを忘れないようにすること,地域社会ではどんなサービスが手配されているか,問題が生じたら誰に連絡をとるのかなどの注意を伝えておく必要があります。
 できれば地域の専門職スタッフには,訪問看護に加わってもらいます。とくに複雑なケースでは,できるだけ多くの関係者に集まってもらい,ケースカンファレンスを行なうことが役に立つでしょう。患者さんのケアの概要を記した手紙を患者さん自身に渡し,その翌日に地区看護婦に手渡してもらうといいでしょう。
 退院したらできるだけ早期に,正式な書状を,口述するかファックスするか郵送するかします。何よりもまず,患者さん自身にケアプランがどうなっているのか,いつ薬をのむのか,誰が援助やサポートを提供してくれるかを,知っておいてもらわなければなりません。
 私たちのセントオズワルドホスピスには,在宅ケア看護婦はおりませんが,慈善団体の事業の発展にともなって,既存のサービスはだぶらせないようになってきていることや,地域社会には在宅ケア看護婦もいるので,私たちが独自に在宅用のチームを育てることはしていません。その点,在宅ケア看護婦が患者さんの命綱になるので,彼女たちとしっかりコミュニケーションができないといけません。とくに患者さんの退院後は,在宅ケアチームのスタッフが,患者さんと私どもの間に立ちますから,いっしょの訓練をしたり,スタッフの果たす役割について理解したりすることが,連繋を維持するには不可欠で,患者さんのためにもなります。
 在宅ケアの看護婦と,病院をベースにした緩和ケア看護婦との看護のネットワークは貴重なものです。死期が間近に迫っている患者さんの退院を調整しようとする場合はとくに重要ですが,これまでの私どもの経験からいって,こういう状況では大半の人は,患者さんの願いに一生懸命応えようとしています。

まとめ
 以上,私どもセントオズワルドホスピスにおける複数の専門職によるチームワークがどうなっているかをお話してきました。みなさんの参考になれたらなによりです。
 もちろん,ケアの提供には数多くのモデルが存在しますので,ここにご紹介した私たちのモデルはその一例にすぎないことは,おわかりだと思いますが,このモデルは,サービスのユーザ,すなわち,ケアを受ける患者さんとご家族のニーズに合わせる中で形成されてきたものであり,その点がセントオズワルドホスピスにもっと重要なことなのです。そして,その鍵といえば,コミュニケーションです。初めはうまくいかなくても,何度も何度もトライしてみてください。
 ご清聴ありがとうございました。

>>質疑応答のページへ<<


Copyright 2005-2018 医療法人 社団 かとう内科並木通り診療所(岡山市南区並木町) Phone: 086-264-8855

 トップページにもどるアイコン